ホーム > 褒賞・外国人留学生奨学金 > 令和4年度 褒賞受賞者
第36回 令和4年度安田・阪本記念賞を受賞させていただくことになり、大変光栄に存じます。1978年に京大を卒業し、何度か静岡地方会で症例報告を発表いたしました。その度に、安田先生から「君の発表は面白かったよ。特に病因の考察がね。」と いったコメントや質問をいただきました。当時、安田利顕先生がどのような先生か知りませんでしたが、後で知るにつけ、大変嬉しいような恥ずかしいような気持ちになったものです。安田先生の人柄がにじみ出た若手人材教育でもあったのでしょう。
阪本匡弘氏 と安田先生の理念が結実し長年継続されている安田・阪本記念賞は、日本における皮膚科学、形成外科学、心療内科学分野の一隅を照らし世界をも照らす記念碑です。実は、私は「この賞が頂けたらなあ」と思っておりました。 病院責任者として病院の赤字対策やコロナ対応に明け暮れていたので、その気持ちもどっかに吹っ飛んでいました。そんな時に受賞のお知らせを頂きましたので、びっくりしたとともに、嬉しさいっぱい、感慨ひとしおです。
全身性エリテマトーデス (SLE)とその皮膚病変について、その発症機序と治療方法の確立に関する一連の研究を行ってきました 。数種のS LEのモデルマウスの解析の中からFas欠損MRL/lprマウスの皮疹がLEの優れたモデルであることを見出し、多くの退交配マウスの解析から、皮疹発症に至る遺伝的背景と紫外線などの環境因子の重要性を明らかにし ました。コロラド大学に留学してからは、ヒトの研究に展開し皮膚LE患者の無血清培養表皮細胞を用いて中波長紫外線により高頻度に抗体依存性表皮細胞障害が起こり、臨床的な紅斑が出現する可能性を示し ました。予防・治療にあたっては、遮光とともに、タクロリムス外用の有用性や Toll like receptor を介して奏功するヒドロキシクロロキンの有効性を多施設二重盲検法で実証し、適正使用ガイドラインを作成することができました。この研究の過程で、自己炎症に分類される中條西村症候群に出会えたことは学問的興味の幅を広げてくれるものでした。
美容皮膚科は、学問的背景に裏打ちされた分野として確立させ、得られた施術を一般診療に組み入れたいと思っておりました。ケミカルピーリングから始まった取り組みでしたが、皮膚癌とりわけ日光角化症の予防や治療に展開できました。
財団設立趣旨にあるハンセン病は京大においては私が病棟医長時代には通常の診療の中で行なわれておりました。私は病理の大学院で学びました。そこで何名かのハンセン病患者さんの剖検を行い、実験的には血中免疫複合体の研究を行いました。和歌山医大に奉職以後も、学生の人権教育の一環として学生と共に学ぶことができました。その成果まとめ、「ハンセン病をテーマとした和歌山県立医科大学の人権教育における学生レポートの解析」として日本皮膚科学会雑誌(2020;130:2689--2697)に発表でき2021年の第16回和歌山県皮膚科医会医学奨励賞(和歌山県皮膚科医会)を受賞しました。医学生における人権教育のあり方の一つを示すことができました。
令和4年3月に日本赤十字社高槻赤十字病院院長を定年退職し、名誉院長兼顧問/皮膚形成外科センター長として若い先生方と共に学び地域医療に貢献していきたいと思っております。
以上をもちまして、令和4年度安田・阪本記念賞の受賞の言葉とさせていただきます。
1978年 | 京都大学医学部医学科卒業 |
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1978年 | 京都大学医学部附属病院皮膚科研修医 |
1979年 | 大阪赤十字病院皮膚科研修医 |
1980年 | 京都大学大学院医学研究科入学 |
1982年 | 京都大学医学部病理学教室第二講座 助手 |
1986年 | 米国コロラド大学医学部皮膚科Immunodermatology Fellow |
1988年 | 京都大学医学部皮膚科 講師 |
1993年 | 浜松医科大学医学部皮膚科 助教授 |
1999年 | 和歌山県立医科大学皮膚科 教授 |
2006年 | 和歌山県立医科大学産官学連携推進本部長(2010年3月まで) |
2008年 | 和歌山県立医科大学副学長 |
2009年 | 和歌山県立医科大学みらい医療推進センター センター長 |
2010年 | 和歌山県立医科大学付属病院 副病院長 |
2014年 | 和歌山県立医科大学産官学連携推進本部長、同教育研究審議会委員(2016年3月まで) |
2017年 |
和歌山県立医科大学定年退職 日本赤十字社高槻赤十字病院 病院長 皮膚科部長職務代理兼務 和歌山県立医科大学名誉教授(2017年~) 和歌山県立医科大学法医学教室 博士研究員 |
2022年 |
日本赤十字社高槻赤十字病院 名誉院長 高槻赤十字病院顧問/皮膚・形成外科センター長 大阪公立大学皮膚科客員教授(2017年~) 京都大学皮膚科臨床教授(2020年~) 一般社団法人大阪府病院協会理事(2018年~) 一般社団法人大阪府救急医療関連連絡協議会理事(2017年~) 公益財団法人日本エステティク研究財団理事(2017年~) |
1985年 | Dermatology Foundation Fellowship Award |
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1987年 | Congressus Mundi Dermatologie Scientific Award 第17回 世界皮膚科学会(ベルリン) |
2019年 | ILDS (the International League of Dermatological Societies) Certificate of
Appreciation 第25回 世界皮膚科学会 (ミラノ) |
2021年 | 第16回和歌山県皮膚科医会医学奨励賞 |
2022年 | Master of Dermatology(Maruho) ほか |
この度は栄えある小川秀興賞を授与いただき、選考委員の皆様、財団の皆様、そして小川秀興先生に、心より感謝申し上げます。この度の受賞は、ひとえに私を皮膚研究の道へと導いてくださった恩師のおかげであり、この場をお借りして感謝の言葉を述べさせていただきます。
弘前大学医学生時代、 膨大な 医学知識を覚えるのが大の苦手だった私が「最小限の知識から 難病治療を導く分野はないだろうか」と悩み、たどり着いたのが 、アデニン、グアニン、 シトシン、チミン のわずか4種類の塩基配列で記された “命の設計図”を読み解き、難病治療へとつなげてい くという道でした。しかし、私が医学部6年生であった昭和60年当時、遺伝子研究は医学領域では基礎中の基礎分野で、ポリクリで回った臨床各科の教授にその想いを伝えても「遺伝子研究は臨床医のやることではない」という反応ばかりでした。しかし、ただ一人「遺伝子レベルの 研究 なくして 難病患者は救えない」という考えを示してくださったのが皮膚科学教室の橋本功教授(当時、現弘前大学名誉教授)でした。その言葉に感激し、橋本功先生の下で皮膚難病の遺伝子研究を開始することを決意して皮膚科学講座に入局いたしました。
入局して初めて知ったのは、橋本教授が遺伝性皮膚難病、中でも表皮水疱症研究の世界的権威であられるということでした。大学院での学位取得の後、橋本教授のご高配で表皮水疱症の原因究明研究で世界をリードしていた米国フィラデルフィア、ジェファーソン医科大学皮膚科に留学し、Jouni Uitto教授のもとで2年間、接合部型表皮水疱症の原因遺伝子と予想されていた 230kD類天疱瘡抗原遺伝子、180 kD類天疱瘡抗原遺伝子のクローニング研究、表皮細胞特異的遺伝子発現制御研究を行いました。帰国後すぐに、順天堂大学皮膚科小川秀興教授(当時)より、小川教授が班長であった厚生省(当時)稀少難治性皮膚疾患調査研究班の班員にご指名いただき、小川班班員として日本で最初の栄養障害型表皮水疱症遺伝子診断技術を確立し、厚生省指定の高度先進医療に認定いただきました。その後の紆余曲折を経て、表皮水疱症の根治的治療法開発を決意し、当時、日本で唯一「遺伝子治療学」を標榜していた大阪大学医学系研究科遺伝子治療学教室の金田安史教授(当時、現大阪大学副学長、筆頭理事)の門をたたき、以後今日まで、大阪大学で表皮水疱症の根治的遺伝子治療法開発を目指しております。
金田教授より、「病態の背景 にある分子基盤の正確な理解なくして根治的治療法の実現は無い」と一貫した指導を受けて、「表皮水疱症患者の皮膚は表皮幹細胞もそのニッチ環境も失っているはずなのに、なぜ再生能力を維持しているのか」という長年の疑問の解明研究を進め、「再生誘導医薬」という新たな概念の創薬実現に迫りつつあります。厚生省小川班で同じ班員であった金田先生との出会いを頂いていなければ私の大阪行きの決断はあり得ず、創薬実現も、そして今回の受賞もあり得ませんでした。私にとって大学における皮膚科学研究者としての締めくくりの時期に、御恩を賜りました小川先生の名前を戴いた「小川秀興賞」を授けていただいたことが本当にありがたく、この場をお借りし、心より感謝申し上げます。
1986年 | 弘前大学医学部専門課程卒業 |
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1990年 | 弘前大学大学院医学研究科修了 |
1990年 | 弘前大学医学部附属病院 皮膚科 助手 |
1990年 | 青森県立中央病院皮膚科 |
1991年 | 米国 フィラデルフィア 、ジェファーソン医科大学皮膚科 留学 |
1993年 | 弘前大学医学部 皮膚科学講座 助手 |
1996年 | 弘前大学医学部附属病院 皮膚科 講師 |
1999年 | 弘前大学医学部 皮膚科学講座 助教授 |
2002年 | 文部科学省内地研究員(大阪大学大学院医学系研究科) |
2003年 | 大阪大学大学院医学系研究科 助教授 (遺伝子治療学分野) |
2004年 | 大阪大学大学院医学系研究科 准教授 (遺伝子治療学分野) |
2010年 | 大阪大学大学院医学系研究科寄附講座 教授(再生誘導医学寄附講座) |
1996年 | 第23回日本電顕皮膚生物学会優秀賞 |
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1997年 | 第24回日本電顕皮膚生物学会優秀賞 |
1999年 | 第17回弘前大学医学部唐牛記念医学(A)賞 |
2001年 | 第1回武田先端知財団武田賞、第1回研究奨励賞最優秀研究賞 |
2008年 | 第14回日本遺伝子治療学会賞 |
2013年 | 大阪大学総長顕彰(研究部門) |
2014年 | 大阪大学総長顕彰(研究部門) |
2015年 | 大阪大学総長顕彰(研究部門) ほか |
この度は、清寺 眞記念賞という大変栄誉ある賞をいただき、誠に光栄に存じます。財団関係者、選考委員の方々をはじめ、ご推薦いただいた皆様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
私の専門は、「メンブレントラフィック(通称 メントラ:membrane traffic)」と呼ばれる細胞内の物流システムの分子基盤とその破綻による疾患発症の仕組みの解明です。細胞内では様々な物質が膜に包まれて小胞の形で運搬されていますが、私達はその中でも特に、メラニンを合成・貯蔵する「メラノソーム」という特殊な小胞に着目して研究を行っています。成熟した黒いメラノソームを作るためには、チロシナーゼなどのメラニンを合成する酵素をあらかじめメラノソームへと運ぶ必要があります。また、核の周辺で形成した成熟メラノソームは、メラノサイト内を細胞骨格という道路に沿って細胞辺縁部まで輸送され、隣接する肌や髪の毛を作る細胞(ケラチノサイトや毛母細胞)に受け渡されることによって、初めて肌や毛髪の暗色化が起こります。これらの輸送過程を制御するためには、交通整理人役の蛋白質が重要で、私達は『低分子量G蛋白質Rab(ラブ)』(ヒトなどの哺乳類には約60 種類の異なる分子が存在)がメラニン合成酵素の輸送やメラノソームの輸送に必須の役割を果たすことをこれまで明らかにしてきました。また、メラニン合成酵素の輸送を制御するRab32、Rab38 やメラノソームの輸送を制御するRab27A の機能破綻は、ヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)やグリセリ症候群(GS)といった色素異常症の原因ともなり、その発症機構が分子レベルで理解できるようになってきました。
さらに最近では、私達が解明した仕組みをターゲットとした化粧品や白髪予防剤の開発の取り組みが産業界でも行われつつあり、私達の研究成果が、基礎科学だけでなく応用面でもメラニン・メラナイゼーションの研究発展に多少なりとも貢献できたのではないかと思っております。
この20年ほどで、メラノサイト内のメラニン関連の輸送については多くのことが分かってきましたが、輸送に着目したメラニン・メラナイゼーションの研究はまだ道半ばです。メラノサイトからケラチノサイトへのメラノソームの受け渡しやケラチノサイト内でのメラノソームの輸送・分解の詳細な仕組みについては、不明な点が多く残されています。引き続きRab という独自の切り口から、これらの分子機構の解明に取り組んでいく所存です。今後も色素科学の研究分野の発展に貢献できるように、より一層の精進を重ねて参ります。
1990年 | 東北大学理学部生物学科卒業 |
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1992年 | 東北大学大学院理学研究科生物学専攻修士課程修了 |
1996年 | 東京大学大学院医学系研究科第二基礎医学専攻博士課程修了、医学博士 |
1996年 | 日本学術振興会特別研究員(PD) |
1998年 | 理化学研究所脳科学総合研究センター発生神経生物研究チーム研究員 |
2002年 | 独立行政法人理化学研究所福田独立主幹研究ユニット ユニットリーダー |
2006年 | 東北大学大学院生命科学研究科生命機能科学 教授 |
2017年 | 科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業( CREST)「細胞外微粒子」研究代表者 |
2018年 | 東北大学大学院生命科学研究科脳生命統御科学 教授 |
2004年 | 日本生化学会奨励賞 |
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2006年 | 花王研究奨励賞 |
2007年 | 日本分子生物学会三菱化学奨励賞 |
2020年 | Takeuchi Medal (The International Federation of Pigment Cell Societies awards) |
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